葛布の需要の激減について

2010年8月7日記
葛布の需要の激減について・・・私見
 遠州地方における 葛布の需要の激減は 明治維新のものが 大きい。
高級衣料として確立していた掛川の葛布は 明治維新後、公家の洋装化、武家の消滅によってその需要先を失います。それがおおきな需要の激減です。
とはいっても 生産量は他の繊維にたいして 微々たるものでありました。
 他の地方においての 葛布の盛衰については わからない事だらけです。
明治の時代まで 存在する葛布は 散見しますので その盛衰は 木綿の普及(紡績技術の機械化)であった可能性が高いです。甑島の葛布、佐志の葛布がその代表です。
 葛は採取するものですから 栽培でできる木綿と大麻、苧麻のように競合関係にあるものでないことに注意をむける必要があります。江戸時代の木綿の普及の影響より 江戸時代後期の木綿の飛躍的増産と明治維新の機械化が 山村や離島に安価で手軽な木綿を普及させた結果、山村離島の葛布に影響をあたえたのではないでしょうか。 これは葛布のみならず、藤布、太布などの原始繊維も同じような影響を受けたのでした。
 中国では紀元前、葛衣が主な服だったのが 大麻の生産性、絹の高級性に席巻されたとされます。唐の時代にはほとんど残らなかったみたいです。葛布の最初の大きな淘汰は 栽培によってできた大麻でありました。その後 大麻は苧麻に取って代わられ 大麻、苧麻は 木綿に席巻されたのでした。
 葛布、藤布、や太布などの直接ライバルは 実は栽培という方法をもちこんだ大麻、苧麻であったのだ。その後細々と続いていたそれらの原始布に最後の鉄槌を落としたのが 、肥料の確保による木綿の生産の飛躍的拡大、機械紡績と動力織機の導入による大量生産であった。安価な木綿の普及により
田畑の少ない山村離島にも木綿が流通し 原始布の生産が止まるのだ。
 従って 葛布の生産の激減は 大麻、苧麻などの栽培植物の出現が大きく、大量生産の木綿が息の根を止めた と考えたほうがよいであろう。

上杉謙信の 葛袴

2010年7月30日 記
酒田の帰り 米沢に寄ってきました。かねてより気になっていた 上杉謙信所領の葛袴を調べる事 が目的です。
 「日本の自然布」などには経緯葛の繊維 と書いてあるので とても興味深いのでした。佐志葛布の唯一の制作者 松尾鏡子さんによると大阪であった展示会でその袴を見たのだが「経糸は葛ではないように見える」とのことで 彼女は展示会のパンフレットを書いた著者に質問を郵送したそうですが、返事がなかったそうです。
 上杉神社からの熟覧許可が難しいので 周辺文献でもないかと 上杉博物館の図書館へ行きました。
 そこで 葛布の水干袴の写真を発見 
拡大写真をみると 緯糸は明らかに葛の平糸である 25本/cm
問題の経糸 解説では 葛の繊維としている
 が 写真で見る限り 経木綿の 江戸時代の葛布のようである。
そこで 疑問が
① 葛の繊維であったなら 経糸に撚りを掛けているが かなり細い糸である
  これが可能かどうか? もし可能だとしても 経糸はかなり堅くなるので
  緯糸の打ち込みが 25本であるような 密度は 考えにくい。
  小堀遠州の甲冑下の葛布は経糸が撚りを掛けていた葛繊維だったが
  そのため網の目のように粗かった。
  経糸が生糸 もしくは 木綿の可能性が高いのではないか。
② 経糸が 従来の木綿であったなら 上杉謙信所用ではなく そのあとの時代
  江戸前期もしくは中期の 蹴鞠装束であった可能性がある

実物を見るまでは まだ判らないですね。
画像は「上杉家伝来衣装」より
DSCN2716.JPGDSCN2714.JPG

小堀遠州の葛布

2009年11月6日 記
 また発見です。昨日東京国立博物館へ行ってきました。そこの小堀遠州の甲冑、鎧下衣服、陣羽織などが陳列されています。 私が最近遠州流のお茶を習っているため、この展示物はことさら興味がわき、
望遠鏡を持って再度子細に眺めると、なんと 鎧下の布が葛布らしい。そこでひたすら展示ケースのガラスに顔をくっつけて望遠鏡でのぞくこと1時間余。
・緯糸は撚りをかけない 葛の平糸 葛らしい平らな繊維の特徴が確認された。糸つなぎは重ねあわせのようだ。葛らしい繊維の束も確認。ほぼ90%葛であると断定
・経糸は撚りをかけた葛糸  植物繊維であることは確実。苧麻の所見は見られない。大麻の所見は見られない。木綿の所見も見られない。光沢があり、繊維の平たいところが確認される。
糸つなぎは撚り掛けが数カ所確認できた。以上の観察からこちらも90%以上葛の撚り掛けS撚りの糸であろう。
 前出の浅野長政甲冑、くさび帷子下の布より 葛布である確立はかなり高いと判断する。

今回は緯糸が葛の平糸であることは 江戸初期にもすでに平糸が使われていたと言うこと。
また、経糸が葛撚り掛け糸であることは 新しい発見であるし、この組織でそれ以前も織られていた可能性がある。
 この上は 上杉謙信所用の葛布袴を見てみたいものだ。
DSCN1604.JPG小堀遠州が大阪夏の陣で使ったと言われる甲冑。東京国立博物館蔵


DSCN1601.JPG
甲冑の肘の部分の画像

DSCN1608.JPG
拡大鏡をつかっての撮影。葛布の特徴が見える。

浅野長政の葛布

2009年11月6日記
 3日名古屋 徳川美術館に行ってきました。浅野長政の甲冑下に葛布が使われているとの情報がはいったからでした。戦国時代の武将のファッション と題した展示会でした。
 前出の甲冑の鎖帷子の下が葛布らしい。ガラス越しですが、望遠鏡で必死こいて見つめること1時間余。葛布ではないかという予想ができました。
 経糸が切れていて、平糸が飛び出ています。近くで見ることができないので はっきりしたことは言えないですが、他の植物繊維では見られない繊維の形状です。ほかの可能性があるとすれば紙を細く切ったもの。でも照明に当たって光っている様は葛の可能性の方が高い。葛らしい繊維の筋は確認できなかった。葛の平糸にしては糸の太さが整い過ぎているのも少し疑問ではある。
 経糸は生糸 かなり細く 経糸密度がある。経糸が切れている方が多く、緯糸が飛び出ている。
そんなこんなで 葛布の確立80%と判断しました。 
緯糸紙の平糸の可能性も否定できませんが、撚りをかけない紙糸が製織に耐えうるのか疑問ではあります。また、紙糸なら 何故撚りをかけないか、また経糸にも紙糸を使わないかという疑問もあります
 これが葛布であれば 桃山時代には葛布は緯糸に使いそれも撚りをかけない平糸である事例の最初です。
 今後甲冑の研究も必要かと思いました。
浅野長政甲冑.jpg
 写真:徳川美術館図録 戦国の武将のファッション 浅野長政の甲冑より

古代の葛布

2009年11月4日記
 古代中国では葛布を持つことはとても財力があることでした。呉王夫差(臥薪嘗胆の故事で有名)が臣下から20万反の葛布を献上されて臣下の財力に驚く話もあります。
さかのぼると、夏王朝の祖である兎が皇帝を禅譲されたときに葛布の衣をかけたとの神話があります。司馬遷の史記においても 夏の衣料として中心であったとの記述がありますし、孔子の禮記には葛布の衣の用い方が載っています。諸葛孔明は葛布の帽子、葛巾を愛用していたようです。

おそらく日本でも葛布はとても貴重なものであったろうと思います
伊勢神宮の神御衣(かんみそ)にも使われたことが最近分かりました。(自然・天然の布)
  天平8年に葛布の半ぴの盗難届けがありました。(正倉院文書)
 葛布の歴史的研究は誰もまだ詳しくしていません。今後葛布の文献が出てくることが
あると思います。が古い時代から葛布は使われていたと想像できます。
 大麻、苧麻は外来植物ですし、藤は日本にしかありません。葛はその点、日本列島が成立する前から 存在していたとされます。(津川教授伝)
 記紀には 葛垣打琴(かだがきうちこと)が載っています。伊弉冉尊の宮に葛の垣根があったとのことです。葛の葉に薄の穂がぶつかっている音をヒントに琴を作ったとされています。まさに国産みの時にあった植物でありました。
 古事記の藤布は 葛布ではなかったかとの指摘(津川教授伝)もあります。
藤と葛は長いあいだ混同されていました。もっとも中国語では葛藤は葛の植物を指します。大阪の藤井寺市にある名称のもととなったお寺は葛井寺(ふじいでら)といいます。
 古代の布 ゆふもしくは木綿(ゆう)は梶布とされていますが、葛布でもあったかもしれません。しかしその白さと柔らかさゆえ ゆふから早めに分離していった気がします。
 古代人の一番手近にあった植物が葛であったとおもいますし、蔓の長さと強度故、ひもや綱にしただろうし、編み物や織物の糸にしたとおもいますが、現在出土例が極端に少ないのが不思議でなりません。

何故葛布は廃れたのか?

2009年11月3日記
何故葛布は廃れたのか?
 いや、廃れないようにがんばっているのですが、やはり自然布の中ではマイナーですね。芭蕉布の知名度には及びもつかない・・・。
実は 古代中国では「夏の布」として葛布が用いられていたようです。古代中国のいろいろな文献に葛布は登場します。また日本でも平安時代には貴族の衣装として制定されていましたし(延喜式織殿寮雑染)神官の服、蹴鞠の袴、などに使われていました。
 しかし、麻、苧麻などの栽培植物とちがって採取しなければ成らないことが おおきな障害となり能率の面で大麻、苧麻にはかなわなくなり、その後木綿の出現で廃れたのだろうと思います。 葛布は繊維を少量採取するには一番簡単ではありますが、量を求めるとなると、とたん難しくなるのです。
 中国では唐の時代から文献の出ることが少なくなっていきます。
大麻、苧麻に取って代わったのではないかと思っております

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