葛布作りについて

葛の採取

 1. 生蔓を採る
6月から8月にかけ、その年新しくのびた蔓で、2〜3mくらいになったものの根本に鎌を入れて採る。女性の小指ぐらいのの太さで、緑色、表面に産毛が生えた物が良い。日陰から日向を求めて真っ直ぐにのびた物が望ましい。木に絡んだり、枝分かれしすぎている物は良くない。葉は蔓の根本から先に向かってこき下ろし、葉柄は残す。採取した蔓の根本をまとめて縛り、束を丸くリースのような輪にして縛る。

葛を煮る

2. 生葛を煮る
 
生葛を採取してから煮るまではあまり時間をおかない方が良い。すぐ煮れない場合は葛束を水に漬けておく。これは日光と乾燥を防ぐためである。葛束が十分入る大きさの釜に水を8分目入れ、沸騰させる。葛束を入れて時々上下を返しながら20分くらい煮る。途中葛は枝豆をゆでたような匂いと鮮やかな緑色を呈す。次に黄変し出すのでこのころ釜からあげ、すぐに水につける。

室入れ発酵

3. 室に寝かせる
ススキなど色素の出にくい草を刈って河原に敷き、その上に葛束を並べる。葛束の上、周りを厚くススキの葉などで覆う。さらに菰をかぶせ、石で重しをする。。4〜5日して手を入れ、葛の表面がぬるぬるして容易にはがれることを確かめて、室から起こす。
毎日発酵状況を確かめて良い。発酵が良いと大して臭くない。

洗い

4.丸洗い 
川の流れで発酵した葛の表皮を洗い落とす。黒い斑が残らないよう十分洗う。葛束を解き、根元から30cm位の所を片手で持ち、もう一方の手で元の外皮をはがして靱皮も良く洗う。靱皮と木質部の間に「わた」が有れば、それも良く落とす。残ると葛糸の品質を悪くする。
5. 袋抜き
 葛蔓を一筋、元を摘み下方へ向かってしごくと靱皮が木質部と離れる。片手で靱皮を押さえながら片手で木質部を引き抜く。靱皮は蓑虫状に手に残る。靱皮の先を摘んで引き延ばし、親指と小指で千鳥にかけ手がなにする。この時。葛の元と先を混ぜないようにする。
6. 苧洗い
 手がなを解いて水に流し、頭部から尾部に向かって振り濯ぎながら洗う。きれいになった部分から手がなにし、靱皮が幾条にも割れないように注意する。
7. 苧の乾燥
石河原の上に葛苧を広げて干す。生乾きの時、元から先に向かってしごいて縮を防ぎ、苧と苧を良く振って離れさせる。 
 
8. 葛つぐり
 
葛苧を巾1〜2mm位に裂いて元と先の部分同士を機結びでつなぐ。これは一本の葛糸に必ず根から先端へと方向性をもたせるためである。結ぶときは糸の端を唾液でぬらしながら行う。結び目の端から出た余分は、鋏で切る。結んだ糸は、おけあるいは新聞紙などのうえに輪をかくように重ねる。このとき一番下の糸端(元)が分かるように少しおけから出しておく。苧おけが一杯になったらそっと裏返し、別のおけまたは新聞紙などの上に移す。大豆や小石などを入れ、糸が絡まないようにする。この葛糸をつぐり棒と呼ばれる丸いはし状の棒に8の字をかくように巻いていく。若いキュウリくらいの大きさになったところで止め、3ケ所を横に止め巻きして終わる。
 
 
 
 
 
 

織り

9. 製織

葛布はほとんどが平織りで、用途に応じて経糸はシルク、麻、綿等を用いる。杼は葛専用のもので、そこがある舟形をしているのが特徴である。この杼に水につけ固く絞ったつぐりをいれて機にかける。おさは斜めに倒し、軽く寄せるだけであるが、トントンとたたくよりも技術を要する。葛糸は激しい操作を嫌うので、動力にかからず、昔から手機で織られる。織り終わったら機からはずし、しけとりというひげを取る作業を行う。その後、砧打ちを施し練りと照りを出す。

ワークショップ

ここで紹介した葛布の作り方の詳細はワークショップで公開しています。
毎年2回行われるワークショップにご参加ください
LinkIcon 詳しくはここクリック
 

各工程の補足

採取する蔓

採取時期

葛の蔓の採取する時期は5月下旬から8月上旬ではありますが、量も、質も良い時期は7月ではないかと
思っています。ただしこの地方に限った事です。場所が違えば当然 採取時期が違うと思います
最近、蔓を選べば、9月上旬まで採取可能である事が判りました。どんな蔓が良いかは
実際見てみないと判りませんね。ワークショップなどで 詳しくはお教えいたします

発酵について

 室に入れる事は発酵を促す事ですが、そのメカニズムの詳細は判っていません。ただ、発酵菌に着目したのは大井川葛布が初めてであると思います。発酵を促すのは枯草菌であると思います。イネ科の植物の葉には納豆菌、枯草菌が沢山付いています。従来納豆菌の説を取っていましたが、(納豆菌も枯れ草菌一種です)糸を曳く事がないので、枯草菌であろうと思います。発酵温度も人間の体温ぐらいがベストとなります。この枯草菌はセルロースを分解する力もあるので、この発酵によって、葛の表皮を発酵させて取るだけでなく、葛の繊維も柔らかくしてくれることが判ります。発酵菌の力で表皮をとるので、表面が痛まず、光沢のきれいな葛の糸が採れます。
 発酵が順調だと 白い黴が生えます。これは枯草菌の胞子です。発酵が終わった事を示します。

室について

葛布の室は土を掘って中に藁やススキを敷き、作るとあります。これが定説になっていますが、
それは 掛川の川出幸吉商店の川出さんを 記事や研究の元としたからです。この方法は掛川市倉真地区で行われていたやり方です。長年、同じところにう室を作り、そこに発酵菌が繁殖し、慣れた室になるかと思います。皆さんが真似ると、腐敗菌が入りやすく、失敗の確率がおおきくなるようです。
 大井川葛布では 土を掘りません。乾いた土もしくは砂利の上にたっぷりとススキをのせて作ります。
この方法はススキを刈り取るのが面倒ですが、失敗も少なく、初心者にはお勧めの方法です。
この室作りは 日坂の宿(現在掛川市)の方法で、桑高たま さんに教えていただきました。
 他にも、石室、田んぼに埋め込むなどいろいろな室作りがありました。

水について

 葛の洗いは川で行いますが 、水質が重要になります。水道水などで洗うとてきめんに光沢がなくなります。大井川葛布では良き水質を求めて、ここ十年3度洗い場を換えました。それだけ水質汚染が進んでいる事を実感します。

とぎ汁について

 従来、葛布を作るとき、葛の苧をとぎ汁につける事をしました。それをする事によって、苧を白くすることが出来ます。しかし、大井川葛布では、繊維の選択をしっかりすれば、とぎ汁で漂白する事はないと考えています。とぎ汁で漂白すると、脂分も落ち、強度が弱くなる、光沢が損なわれる、経年の変化が進みやすい、と考えています。良い繊維を選べば光沢のある葛布ができると思います。

筬打ちについて

 葛布の筬打ちは 葛の平糸を掬うように打ち込みます。そうする事によって、葛の繊維の平たい部分がつぶれずに打ち込めます。が、掬う事によって糸がうまく打ち込めません。技術が問われるところです。

つぐりについて

 ツグリを使う織物は 葛布の他に、八重山上布、芭蕉布など。ただし、みな繭型に作り、糸端を
中から出します。そうする事によって、糸が出るときに少し撚りがかかります。葛布のつぐりはキュウリ状に作り、横から糸を出します。そのため撚りがかかりにくく、平糸のまま 出てきます。

織り機について

葛布機は経を水平に張っていません。男巻き側が低いのです。
筬框は軽く、筬引きで平行を出します。どれも葛糸の平を出す工夫であります。